白瀬 むぎ
Shirase Mugi
白瀬むぎ(しらせ むぎ)は、極北の海や氷原を舞台に、人と自然のあわいに宿る静けさを描くアーティストです。分厚く盛り上げた絵の具で氷の稜線を彫刻のように起こす一方、空と海は溶けるように滑らかな筆致でぼかし込む。この対照的な二つの手法を一枚の画面に同居させることが、白瀬むぎの表現の核にあります。
画面に登場するのは、たいてい厚手のコートに包まれてひとり佇む人物と、傍らに舞い降りた一羽の鳥。広大な氷と海のあいだ、ほんの小さな体温が、冷たい水面にそっと指先を浸す。その仕草には、恐れよりも好奇心が、孤独よりも静かな親密さが宿っています。
色彩はグレイッシュブルーとオフホワイトを基調とし、氷の割れ目にわずかに差す淡いピンクや光の温度だけが、画面に人肌のようなあたたかさを添えます。派手さのない色域のなかで、見る者の視線は自然と「境界」(氷と海、寒さとぬくもり、ひとりと世界)に吸い寄せられていきます。
白瀬むぎのアートは、厳しい自然を前にした人間の小ささを描きながらも、そこに宿る好奇心や親密さを手放しません。冷たい海に指先を浸すという、ごくささやかな仕草のなかに、世界と静かに触れ合おうとする勇気が滲んでいます。

